3)モータ定数の測定方法を教えて下さい。
誘導モータのパラメータ測定方法の代表例として,JIS C 4210一般用低圧三相かご形誘導電動機(2001年8月20日改定)が知られています。また,一般社団法人電気学会編「電気工学ハンドブック第7版」オーム社の15編pp. 787-799,一般社団法人電気学会大学講座「現代電気機器理論」オーム社の第3章pp. 104-106,一般社団法人電気学会大学講座「電気機器・パワーエレクトロニクス通論」オーム社の第9章pp. 178-180もお読みになることをお勧めします。
誘導モータは通常T形等価回路として表されたり,L形簡易等価回路として表されたりします。このとき,測定すべきパラメータは,一次巻線抵抗,二次巻線抵抗,一次漏れリアクタンス,二次漏れリアクタンス,励磁サセプタンス(または,励磁インダクタンス),励磁コンダクタンス(または,等価鉄損抵抗)の6つです。誘導モータのパラメータ測定は一次抵抗測定試験,無負荷試験,拘束試験の3つの試験から成っています。まず,一次抵抗測定試験では適当な直流電源等を用いて一次巻線に電流を流し,直流電位降下法によって一次抵抗を測定します。測定された抵抗値は必要に応じて温度換算されるほか,1.05~1.25倍されてAC抵抗値として取り扱われます。次に,誘導モータを定格電圧で無負荷運転し,線間電圧,線電流,入力電力を測定して励磁サセプタンスと励磁コンダクタンスを算定します。無負荷試験も後述の拘束試験も商用電源を用いて50/60 Hzの下で行うのが普通です。したがって,周波数によって大きく変わる励磁コンダクタンスの算定値は無負荷試験で用いた周波数においてのみ有効であることに注意が必要です。また,励磁サセプタンスには磁気飽和現象による変動がありますので,無負荷試験の条件(特に印加電圧と周波数)に大きく左右されることを念頭に置かなければなりません。最後に,誘導モータの回転子を回らないように拘束し,定格電流が流れる程度の電圧を印加して拘束試験を行います。このとき,線間電圧と線電流,入力電力を測定して一次抵抗と一次側換算された二次抵抗の和,一次漏れリアクタンスと一次側換算された二次漏れリアクタンスの和を算定します。巻線抵抗については既に一次抵抗測定試験が行われていますので,一次抵抗と二次抵抗を分離することができます。しかし,漏れリアクタンスについては分離することができないので,通常は算定された値を折半してそれぞれを一次漏れリアクタンス,二次漏れリアクタンスとします。通常は励磁回路のインピーダンスは非常に大きいので,拘束試験では励磁回路を無視して一次抵抗と二次抵抗の和,一次漏れリアクタンスと二次漏れリアクタンスの和を算定します。しかし,小容量の誘導モータの場合,励磁電流と二次側に流れる電流が拮抗するため,励磁回路を無視すると算定されたパラメータに大きな誤差が生じるので注意が必要です。
近年,使用されることが多くなった永久磁石同期モータは,測定すべきパラメータとして電機子(固定子)巻線抵抗,誘起電力定数(回転子磁石磁束鎖交数),d軸インダクタンス,q軸インダクタンスが挙げられ,これらのほか等価鉄損抵抗も測定対象となることがあります。これらを測定する方法は多々ありますが,ここでは最も一般的で簡易な手法を紹介します。まず,電機子巻線抵抗は適当な直流電源等を用いて電機子巻線に電流を流し,直流電位降下法によって測定します。誘導モータと同様に測定された抵抗値は必要に応じて温度換算されるほか,1.05~1.25倍されてAC抵抗値として取り扱われます。次に,永久磁石同期モータの電機子巻線を開放した状態で回転子を外部から回転させ,電機子電圧を測定してその角周波数と電圧波高値から誘起電力定数を算定します。さらに,d軸およびq軸インダクタンスは三相電機子巻線のうち2相の端子を短絡し,他の1相の端子との間に単相交流電圧を印加して測定します。パラメータを測定しようとする永久磁石同期モータが内部永久磁石(IPM)形ならば,d軸インダクタンスの方がq軸インダクタンスよりも小さいので,d軸方向に単相交流電圧を印加すると交流電流の振幅が大きくなり,逆にq軸方向では電流振幅が最小になります。このことを利用して単相交流電圧を印加しながら回転子の位置を変化させてd軸とq軸の方向を特定します。それぞれの方向を特定できたら,単相交流電圧と交流電流の振幅ならびに位相関係からd軸インダクタンスとq軸インダクタンスをそれぞれ算定します。なお,表面永久磁石(SPM)形モータの場合には,基本的にd軸とq軸でインダクタンスの差はありませんので,任意の回転子位置において同様の手順でインダクタンスを求めることができます。
永久磁石同期モータのパラメータ測定で特に問題となるのがd軸およびq軸インダクタンスの測定方法です。上記手法は最も簡易な例ですが,上記手法に若干変更を加えたものや,ステップ電圧を加えて電流応答の時定数から算定するもの,さらにはベクトル制御を行いながらインダクタンスを測定する方法もあります。前者は巻線間に単相交流電圧を印加しながら回転子の位置を変化させてd軸とq軸の方向を特定するところまでは同じですが,その後直流に微小振幅の交流を重畳した電圧を印加して,重畳した交流電圧と交流電流の振幅ならびに位相関係から各軸のインダクタンスを算定するものです。直流バイアスがかかっているところが異なり,磁気飽和特性をより正確に捉えることができると考えられます。ベクトル制御に基づく手法は基本的に永久磁石同期モータが正確にベクトル制御されていることを前提とします。したがって,ベクトル制御が立脚する数学モデルが実際のモータを精度よく反映できており,d軸およびq軸の電圧や電流が正確に把握できることが重要です。このような前提の下でベクトル制御を行いながらd軸およびq軸の電圧や電流を測定し,モータの数学モデル(dqモデル)からインダクタンス値を逆算することができます。なお,IPM同期モータの場合,d軸方向には永久磁石が配置されているため磁気抵抗が大きく磁気飽和現象があまり見られないのに対し,q軸方向の磁路は鉄で構成されており磁気抵抗が小さいため磁気飽和現象が顕著に表れます。このため,インダクタンス値の電流振幅依存性も念頭に置いてパラメータ測定を行う必要があります。さらに,d軸方向の磁気飽和とq軸方向の磁気飽和は各軸の電流にのみに独立して依存するのではなく,両軸の電流により影響を受けます。このような現象をクロスサチュレーションと呼びます。クロスサチュレーションはd軸電流とq軸電流により発生した磁束が,固定子や回転子のバックヨークを共通の磁路として通るために起こります。したがって,クロスサチュレーションの度合いはモータの磁気回路設計に大きく左右されるため,それが顕著に表れる物もあればそうで無い物もあります。