Q and A

よくある質問

回転機に関する質問

1)電磁鋼板の”35H300″や”50A1000″はどのような意味なのですか?また,一般的にはどのような電磁鋼板を選べばいいのですか?
35H300や50A1000は無方向性電磁鋼帯の種類を表す記号です。例えば50A1000の”50”は板の厚さが0.50 mmという意味で,Aは無方向性電磁鋼帯であることを示しており,”1000”は所定の条件下における鉄損が10.00 W/kg以下という意味です。詳しくはJIS C 2552規格をご覧ください。35H300も同様ですが,これは企業の商品名になります。電磁鋼板の選び方についてですが,一般的には価格,納期,磁気特性などを総合的に勘案して選定されると思います。

2)モータ試作を考えているのですが巻線の電流密度の選び方が分かりません。自然空冷の場合にはどれくらいの電流密度が一般的ですか?また,強制空冷や水冷(油冷)の場合にはどこまで電流密度を上げることができますか?
モータの駆動条件,使用環境,銅損以外の損失等もモータの温度上昇に関係するため,冷却方式だけで電流密度の値を選定することはできません。モータ全体としての冷却性能や耐熱性能にも依存します。

3)全節巻, 短節巻とは何ですか?
同期機などの電機子巻線の巻き方を表す言葉です。コイルピッチが磁極ピッチに等しいものを全節巻,磁極ピッチよりも短いものを短節巻といいます。全節巻の方が大きな誘導起電力が得られます。短節巻にすると誘導起電力の大きさはやや減りますが,その波形を大幅に正弦波に近づけることができます。

4)回転子の磁石位置を確認しないままモータケースを閉じてしまい,回転子位置センサのZパルスと磁石N極(d軸)の位置関係が分かりません。誘起電圧波形からd軸方向を調べる方法はありますか?
調べる方法があります。モータの電機子巻線端子(U,V,W)を開放し,別途の原動機で回転子を一定速度で回転させ,U相の誘起電圧波形をレコーダで測定します。この誘起電圧波形が正から負に切り換わる「ゼロクロス」のタイミングで,磁石N極(d軸)の位置はU相の巻線軸の方向に一致(すなわち,回転子は0度の位置を通過)します。
これの根拠については,電機子電流が三相ともゼロのときの三相座標系におけるモータの電圧方程式を見ると「あ~,なるほど」と納得できると思います。
電機子巻線の中性点が引き出されていない場合は,U-V端子間とW-U端子間の2つの誘起電圧波形を測定すると,これらが負で交わる瞬間が上記のタイミングと一致します。
上記のタイミングからZパルスが出力されるまでの,回転子位置センサの出力パルス数をカウントしておけば,Zパルスと磁石N極(d軸)の位置関係を把握しておくことができます。

5)海外では永久磁石同期モータなどで”Fractional slot machine”がはやっているようですが、日本語ではどのように訳せば良いですか?また,どのような構造のモータなのですか?
“Fractional slot” は,日本語では「分数スロット(分数溝)」と直訳されます。同期機などでは,全スロット数を相数と極数の積で除したものを「毎極毎相のスロット数」と呼びますが,これが1となる巻き方を集中巻,2以上になる巻き方を分布巻と呼びます。一般に,毎極毎相のスロット数は整数にする場合が多いですが,波形改善効果などを狙って,これを分数にしたものを分数スロットと呼びます。分数スロットは,出力電圧波形を改善するなどの効果がありますが,一方で各相の起磁力に偶数調波や分数調波成分が含まれるため,損失の増大や振動・騒音の増加などのデメリットも指摘されています。
なお,集中巻と分布巻については別の定義の仕方もあります。毎極毎相のスロット数によって定義するのではなく,1つの固定子ティースにコイルを直巻したものを集中巻,複数のティースに跨ってコイルを巻いたものを分布巻と呼ぶこともあります。この定義による集中巻は毎極毎相のスロット数が通常分数となるため分数スロットとなります。

6)巻線を頑張ってきっちり巻けば,スロット内の巻線占積率は90%ぐらいは実現できるのでしょうか?もし難しい場合はどのくらいの占積率を想定しておくと良いのでしょうか?
占積率を議論する場合,定義を明確にしておく必要があります。ここでは占積率を
占積率(%)=(導体断面積+被膜断面積)/(スロット断面積-絶縁物断面積)×100
と定義します。四角い断面形状に丸線を整列させた場合を想定すると完全に整列した部分の局所的な占積率はおおよそ90%となります。したがって,丸線で占積率90%はあり得ない数値だと考えてよいかと思います。当然,被膜を除いた導体断面積の占める割合で占積率を定義すればさらに小さい値となります。また,実機の占積率はモータ設計と巻線工法に大きく依存します。巻線の断面形状と巻線工法を工夫すると占積率を向上することができます。角線を密着させて巻くことで従来丸線の65%から80%まで向上したという検討事例があります。