地域供給系統モデル

第 II 部 地域供給系統モデル

1. 地域供給系統モデル作成の目的と概要
1.1 適用目的
1.2 各モデルの特徴
1.2.1 架空線系統 (系統 I)
1.2.2 地中系統 (系統 II)
1.2.3 架地混系統 (系統 III)
1.3 モデルの使用について

2. 文献調査の結果
2.1 国内文献
2.2 海外文献
2.3 文献調査結果のまとめ

3. 地域供給系統モデル
3.1 系統 I 77kV 架空送電線系統
3.1.1 系統モデルの概要
3.1.2 系統データ
3.1.3 制約事項
3.2 系統 II 77kV 地中送電系統
3.2.1 系統モデルの概要
3.2.2 系統データ
3.2.3 事故復旧時の制約事項
3.3 系統 III 66kV 架空線・地中線混在系統
3.3.1 系統モデルの概要
3.3.2 事故復旧検討用のデータ
3.3.3 事故復旧検討時の制約事項
3.3.4 信頼度評価検討用データ

■ 系統データのダウンロード


1. 地域供給系統モデル作成の目的と概要


 わが国の地域供給送電系統 (77 ~ 66kV) をモデル化した、下記に示す大きく分けて 3 種類の系統モデルを作成した。

  • 系統 I 77kV 架空送電線系統 (架空線系統)
    Model I : 77kV Provincial system model
  • 系統 II 77kV 地中送電線系統 (地中系統)
    Model II : 77kV Metropolitan system model
  • 系統 III 66kV 架空線地中線混在系統 (架地混系統)
    Model III : 66kV Suburban system model

 今後、論文等で参照される場合、系統 I などの番号か、( ) 内の略称、および英文名を記載していただければ幸いである。
 作成作業は、各委員へのアンケート調査結果に基づいて行ったが、一部時間的制約などで変更せざるを得なかった点もあり、以下にその概要を示す。

1.1 適用目的

 アンケートの結果から、地域供給系統モデルの適用目的として、
 (i) 事故復旧・系統切換えアルゴリズムの性能検証
 (ii) 信頼度評価手法の性能検証
 (iii) 分散型電源最適配置検討手法の性能検証
の順にニーズが高かったので、これを優先順位として作業を進めた。
 作成方法は次節に述べるが、3 種類の系統とも (i) の目的には使用できることを検証した。また、(ii) の目的に対しては、系統 III が検証済みである。(iii) についても、モデルには、送電線容量や負荷など基本的なデータがすべてそろっているので、対応可能と考えられるが、具体的な手法での検証は未実施である。

1.2 各モデルの特徴

1.2.1 架空線系統 (系統 I)

 小規模水力電源が点在する架空送電線系統である。架空送電線により、電源変電所が密に連系されているうえに、出力が変化できる電源が接続されているので、事故時復旧検討における、いわゆる組合せ最適化問題の検討などに適していると考えられる。

1.2.2 地中系統 (系統 II)

 高信頼度が要求される大都市中心部オフィス街の地中送電線を主とした系統を想定している。雷事故がなく事故率が低いことを前提とした系統構成のため、大規模系統事故時には 77kV 系統のみの切換えでは供給支障の解消が困難であるため、送電系統切換えに加えて配電線による切換え可能量を示すことにより、配電系統も簡易的に模擬していることが特徴である。

1.2.3 架地混系統 (系統 III)

 大都市周辺部の系統を想定しており、中規模の商業地域 (地中送電線系統)、工業地域、住宅地域 (架空送電線系統) が混在している。 事故復旧系統検討に必要なデータに加えて、信頼度検討用に、機器の故障率に加え、商業・工業・住宅の 3 種類の負荷について、1 時間ごとの負荷レベルデータを 1 年分設定している。
 複数の用途に対応したデータを用意したため事故復旧検討用の系統モデルとしてはデータに冗長な部分が存在している。 そこで、事故復旧系統検討に関係ないと考えられるデータを簡略化した系統モデルも併せて提供している。

1.3 モデルの使用について

 モデル作成は、今回が初めての試みであり、適用目的に対して「適度なむずかしさを有しているか」などのモデルとしての完成度は、まだこれから向上していかなければならない面が多々あると思われる。また、今回研究者の中から特に実系統の状況をできるだけ盛り込んでほしいとの要求があったことから、逆に、適用目的から見て不要な詳細データが含まれ、複雑すぎて扱いにくくなっていることが懸念される。
 以上のことから、本モデルの使用にあたっては、必ずしもモデルのデータ全てを忠実に使用していただく必要はないと考えている。むしろ、一部でも結構、負荷レベルなど目的によって変化させるなどして、いろいろな研究に使用していただければ、と考えている。ただ、モデルの作成趣旨が、研究者の共通の土俵作りにあることから、どの部分を使用したか、省略したか、変化させたかなどは、論文中に明記していただきたい。
 また、今回作成したのは「標準」モデルであるが、その中のデータの全てが日本の標準的な値であるとは限らないことに注意していただきたい。たとえば、設備の短時間容量の許容時間や故障率、復旧・系統切換え時間などは、日本の電力会社ごとに異なっており、「標準」と言うものは存在しない。今回のモデルで提供した値は、ある電力会社で使用している値をベースにしているので、現実的な値ではあるが「日本の標準」ではない。本モデルを使用して海外への論文発表をされる場合など、この点に留意していただければありがたい。

2. 文献調査の結果


 系統モデルの作成の際の参考とするため、現在までに発表された国内外の論文について、系統モデルの利用状況に焦点を当てて文献調査を行った。アンケートの結果より、地域供給系統モデルの適用目的に対するニーズは把握できたが、既存の系統モデルを用いて過去に行われた研究の動向をも参考とするべく実施した。調査対象としたのは 表 2.1 にあげた電力関連の学術雑誌などである。すべての対象論文を調査し、地域供給系統に該当すると思われる系統モデルが適用されている論文を列挙した。ただし海外文献の場合、系統分類上の基準が日本と異なることから、二次系統に関連すると明確に記されている論文は少ない。よって、文中に明記されていなくとも 66kV、77kV クラスのものであれば調査対象とした。調査した国内外の文献の一覧表を 表 2.1 に掲載する。
 その結果、最初に行った予備的な調査においてあげられた論分数は 表 2.1 のようになった。これら該当論文についてさらに調査し、考察問題の種類、適用されている系統モデルの特徴などを抽出した。

表 2.1 調査対象文献

文献名 対象年 該当
論分数

電気学会
論文誌 B
全国大会講演論文集
電力エネルギー・部門大会論文集
電力技術・電力系統技術研究会資料
1986
~ 1997
41

IEEE
Trans. on Power Systems
Trans. on Power Delivery
1990
~ 1997
59

2.1 国内文献

 国内文献においては、実際の系統の一部分を切り出してモデル化しているものがほとんどであった。適用されていた問題は主に、事故復旧 (負荷切換え)、信頼度解析、系統計画、最適構成決定などである。図 2.1 にその内訳を示す。事故復旧に関する論文が圧倒的に多く、アンケート結果に一致する。

2.1

図 2.1 適用問題の内訳 (国内文献)

 電圧階級としては 66kV 系が中心であり、上位側 154kV 系までを含めた文献も散見された。系統モデルの規模については考察している問題の種類やその解法などに依存するが、電源変電所数で 3 ~ 1 箇所、負荷点数が 6 ~ 5 箇所であるような単独二次系統や、電力会社の支店スケールの二次系統を 3 階層に分けたモデルなどが見受けられた。

2.2 海外文献
 海外文献にて対象となっている問題は、主に事故復旧、信頼度解析、系統計画 (停電コスト最小化)、事故区間判定などであった。やはり、基本的に事故復旧や信頼度解析、系統計画のために用いられていたものが多く、その内訳は 図 2.2 に示されている。ただし、なかには配電系統に関する問題と思われるものも含まれており、幅広い種類にわたるという結果になった。これは、海外における系統分類上の基準が日本と異なり、かなり広い範囲が調査対象となっているためである。これを国内文献での基準とそろえるため、電圧階級にかかわらず明らかに配電系統が対象であるものを除くと図 2.3 のようになる。やはり事故復旧が最も多く、信頼度解析、事故区間判定と続く。順位こそ異なるが、ほぼ国内文献の場合と同様の結果となった。
 系統モデルの作成方法としては、実系統の一部を切り出したモデルが多かったが、信頼度解析に関しては IEEE Reliability Test System を用いている文献もあった。系統モデルの規模は、電源変電所数で 1 ~ 6 程度、ノード・ブランチ表現したもので最大 300 ノード近い規模のものも見受けられた。

2.2

図 2.2 適用問題の内訳 (海外文献)

2.3

図 2.3 適用問題の内訳 (海外文献 : 配電系統を除く)

2.3 文献調査結果のまとめ

 以上のように、国内外を問わず、事前に行ったアンケート結果と同様の傾向が現れた。よって地域供給系統モデルとしては、ニーズの高かった事故復旧、系統切換え問題や信頼度解析問題などに必要十分は種類のデータが具備されている必要がある。また、系統モデルの規模に関しても、ある程度のむずかしさを伴っていないと汎用系統モデルとしてふさわしくなく、文献調査の結果を踏まえて決定された。

3. 地域供給系統モデル


3.1 系統 I 77kV 架空送電線系統

 本系統モデルは、系統事故復旧を主体とした検討用に、大規模事故復旧検討にも対応できるよう、系統規模の大きなモデルとして作成した。なお、検討内容に応じて選択できる 2 とおりの負荷ケースを設定している。

3.1.1 系統モデルの概要

 本系統モデルは、電源変電所一次側母線以下 77kV 系統を対象に模擬してある。系統モデルを 図 3.1図 3.2 に示すとともに、以下に概要を述べる。

3.1

図 3.1 77kV 架空送電線系統モデル図 (標準負荷ケース)
この画像を保存すると 1500×1050 pixel の画像になります。

3.2

図 3.2 77kV 架空送電線系統モデル図 (増加負荷ケース)
この画像を保存すると 1500×1050 pixel の画像になります。

 (1) 系統について  系統は、12 の電源変電所および各電源変電所間を連系する送電線、その途中にある線路開閉設備を有する発変電所 (以下「連系変電所」と呼称)、小規模水力発電所から構成されており、各系統は、連系変電所または電源変電所で系統分離されている。なお、送電線から分岐する配電用変電所、特高需要家は集約してある。系統 I の規模を 表 3.1 に示す。

表 3.1 系統 I の規模

電源変電所数 / 設備総容量 (個別計) 12 箇所 / 6,337 MW
水力発電所, 連系変電所数 21 箇所
発電出力 39 ~99 MW
内訳 可変出力
固定出力
10 ~ 70 MW
29 MW
連系送電線数 48 ルート
需要総量 標準負荷ケース
増加負荷ケース
5,041 MW
5,351 MW

 系統の地域性としては、大きく分けて系統図上部の山間部と左部および下部の需要密集地に分けられる。山間部は系統間連系が弱く水力が並列している。それに対し需要密集地は電源変電所が集中し、複数連系している。

(2) 負荷ケースについて  本系統モデルでは、負荷設定の異なる 2 ケースを用意してある。

(a) 標準負荷ケースを 図 3.1 に示す。
 このケースは実運用に近い負荷設定としてある。
 適用例 : 復旧時間最小化検討 など

(b) 増加負荷ケースを 図 3.2 に示す。
 このケースは標準負荷ケースに対し、一部の負荷設定を大きくして設備余力を減らし、事故復旧後の残存供給支障が大きい負荷設定としてある。
 適用例 : 供給支障最小化検討 など

3.1.2 系統データ

 本系統モデルでは、以下のデータを系統図上に表示している。
(1) 電源変電所
(a) 変圧器連続容量 (MW) : 変圧器個別および合計の連続容量値を表示している。合計値は、インピーダンスのアンバランスがある箇所は、インピーダンス比を考慮した値としてある。

(b) 変圧器事前潮流限度 (MW) : 図 3.3 および 図 3.4 の変圧器過負荷パターンから決まる常時の変圧器潮流限度値を表示している。

(c) 変圧器インピーダンス (% / 10MVA ベース) : 変圧器個別の 10MVA ベースでのインピーダンス値を表示している。

(d) 二次側母線構成 : 2 重母線構成となっており、各変圧器、送電線、負荷の母線接続状態を表示している。

(e) 位相差 : 変電所 No.1 の一次側母線に対する各電源変電所一次側母線の位相差を表示している。

3.5
図 3.3 変圧器過負荷パターン (2 台並列時)

3.4
図 3.4 変圧器過負荷パターン (3 台以上並列時)

(2) 連系変電所

(a) 77kV 母線構成 : 2 重母線または単一母線構成となっており、2 重母線箇所は、各変圧器、送電線、負荷の母線接続状態を表示している。

(3) 連系送電線

(a) 連続容量 (MW) : 1 回線あたりの連続容量値を表示している。

(b) 短時間容量 (MW) : 図 3.5 の送電線過負荷パターンから決まる 1 回線あたりの短時間過負荷値を表示している。

(c) インピーダンス (% / 10MVA ベース) : 1 回線あたりの 10MVA ベースでのインピーダンス値 (X 成分のみ) を表示している。

3.3
図 3.5 送電線過負荷パターン

(4) 負荷

(a) 復旧優先度 : 各負荷を 3 段階に区分し、復旧優先度の高い順に I、II、III として表示している。

3.1.3 制約事項

(1) 変圧器の事前潮流値  電源変電所変圧器潮流は、変圧器並列運用時は合計潮流を事前潮流限度以内とし、単独運用時は連続容量以内とする。

(2) 送電線の事前潮流値  連系送電線潮流は、2 回線並用運用時は合計潮流を 1 回線短時間容量以内とし、1 回線単独運用時は連続容量以内とする。

(3) 事故時の変圧器潮流値  変圧器並列運用時に変圧器が事故停止した場合の残り変圧器潮流は、図 3.3 または 図 3.4 の過負荷パターン内とし、パターン内に入らない場合は、負荷遮断を行う。また、隣接系統から事故復旧を行う場合の隣接変電所変圧器潮流は、連続容量以内とする。

(4) 事故時の送電線潮流値  2 回線並用運用時に 1 回線が事故停止した場合の残り回線潮流は、図 3.5 の過負荷パターン内とし、パターン内に入らない場合は、負荷遮断を行う。また、隣接系統から事故復旧を行う場合の隣接連系送電線潮流は、連続容量以内とする。

3.2 系統 II 77kV 地中送電系統

 本モデルは、ケーブル系統を主体とする都市部においての事故復旧操作の検討を行う際のモデル系統として開発した。特徴としては、復旧手段として系統切換えの他に配電切換えによる負荷移行を可能としている。

3.2.1 系統モデルの概要

 本系統は、オフィス街、商業地域を中心とした都市の中枢部であり、主として地中ケーブルで構成されている供給地域である。上位系統から受電している電源変電所が隣接しており、配電用変電所はこれらの電源変電所から受電している。
 本系統には 6 カ所の電源変電所、2 箇所の連系変電所、1 箇所の開閉所および 27 箇所の配電用変電所が存在する。系統構成は放射状で運用されており、常時開放点で系統を区分している。したがって、電源変電所の事故による全停範囲を限定することができ、復旧時には隣接系統からの供給が可能である。

3.2.2 系統データ

 地中送電系統の構成を 表 3.2 に示し、系統モデルを 図 3.6 に示す。すべての系統データを系統図上に表示している。データ項目の詳細は次の通りである。

表 3.2 地中送電系統の構成,/a>

電源変電所数 / 設備総容量 6 箇所 / 3,200 MVA
連系変電所数 2 箇所
開閉所数 1 箇所
配電用変電所 27 箇所
特高需要家数 15 箇所
送電線数 48 ルート
需要側設備総容量 / 需要総量 1,900 MW / 1,370 MW

3.6

 図 3.6 77kV 地中送電系統モデル図
この画像を保存すると 1500×1050 pixel の画像になります。

(1) 電源変電所

(a) 連続容量 (MVA) : 送電用変圧器の連続容量を記述している。この値の総計が変電所容量である。

(b) 特高需要家負荷 (MW) : 送電用変電所から直接供給している負荷に対してはノード番号と負荷の値を記述している。

(c) 二次側母線構成 : 各変電所は 2 母線または 3 母線で構成されており、母線連絡開閉設備の投入または開放表示によって母線構成を示している。投入中の設備は○で表示し、開放中の設備は×で表示している。

(2) 配電用変電所

(a) 負荷 (MW) : 初期状態での負荷の値を示している。

(b) 連続容量 (MW) : 変電所の最大容量を示している。

(c) 負荷切換え先 : 配電切替が可能な配電用変電所は、負荷の移行先を矢印で示している。どちらか一方の変電所が停電したときは、他方の変電所へ負荷を切り換えることができる。

(d) 位相差 : 変電所 1 の変圧器二次側母線に対する各電源変電所二次側母線の位相差。

(3) 送電線

(a) 連続容量 (MW) : 連続許容値としての 1 回線あたりの送電容量を示している。

(b) 短時間容量 (MW) : 10 分以内の短時間許容値としての 1 回線あたりの送電容量を示している。

(c) インピーダンス (%) : 各送電線 1 回線あたりのインピーダンスを 10 MVA ベースで記述している。平行 2 回線または平行 3 回線の送電線の場合は、インピーダンスは同じ値であるため代表 1 回線の値のみを記述している。

(d) 開閉設備 : 送電線の開閉設備で投入中のものは図では省略しており、開放中の開閉設備のみ×印にて表示している。

(4) 復旧優先度

 各負荷を 2 ランクに分類し、復旧優先度の高い負荷を I、復旧優先度の低い負荷を II と表示している。

3.2.3 事故復旧時の制約事項

(1) 事故復旧手順

 事故復旧の検討においては、電源変電所の全停事故に対して、系統切換えおよび配電切替えによって過負荷を解消しつつ停電箇所を復旧することを想定している。
 復旧手順としては、まず 77kV 系の系統切換えを行い、系統切換えのみでは線路の過負荷が解消できない場合や停電箇所を復旧できない場合には、配電切換えによる負荷移行を行う。

(2) 系統操作条件

 本系統では系統各部の電圧はほぼ一定であり、直流法潮流計算が使用できる。電圧などの制約がないため、77kV 系の系統切換え時における開閉設備の入切操作は任意に行うことができる。ただし、最終系統は各電源変電所ごとに系統を構成し、電源変電所同士は連系しないこととする。
 送電線と電源変圧器の短時間過負荷容量とその使用可能時間については 3.1.3 節 と同じ考え方とする。送電線の事前潮流は n-1 事故時に短時間容量を超えない値とする。
 配電切換え時の負荷の移行先はあらかじめ決められており、一つの切換え先に対して最大 30 MW まで切換え可能とする。ただし、各配電用変電所ごとの連続容量の最大値を超えない範囲とする。
 以下に、復旧手順の概略を示す。

(a) 手順

(i) 77kV 系の系統切換えを行う。
(ii) 系統切換えのみでは線路の過負荷が発生する場合には配電切換えを行う。

(b) 条件

(i) 配電切換えは各切換え可能先に負荷を移行する。一つの切換え先に対して最大 30 MW まで切換え可能とする。
(ii) 各配電用変電所ごとの連続容量の最大値を超えない範囲とする。
(iii) 配電切換えは停電区間から健全区間へ負荷を移行するものとする。健全区間の負荷を移行することは行わない。
(iv) 最終系統は、各電源変電所ごとの系統を構成することとし、電源変電所同士は連系しない。

3.3 系統 III 66kV 架空線・地中線混在系統

 本系統モデルは、事故復旧検討ならびに信頼度評価を目的として、わが国の大都市近郊に見られる工業・商業・住宅地域が混在している系統を模擬し、可能なかぎり実在する系統に近づけた系統モデルである。

3.3.1 系統モデルの概要

 本モデルの猛暑期 15 時の負荷断面を表した系統図を 図 3.7 として示す。系統の規模は 表 3.3 のとおりである。

3.7

図 3.7 66kV 架空線・地中線混在系統モデル図
この画像を保存すると 1500×1950 pixel の画像になります。

表 3.3 系統 III の概要

電源変電所数 / 設備総容量 4 箇所 / 2,700 MVA
66kV 連系変電所数 8 箇所
配電用変電所数 (連系変電所を含む) 38 箇所
特高需要家総数 95 箇所
送電線ルート数 37 ルート
需要側設備総容量 / 需要総量 2,430 MVA / 1,680 MW

 モデルの模擬範囲は電源変電所の一次側母線から、配電用変電所については変圧器二次側まで、需要家設備については一次側 (66kV) 母線までとした。 系統には 4 箇所の電源変電所が存在し通常はそのうち 1 箇所の電源は母線分割されており、66kV 系統については計 5 つの系統に分割されて放射状に運用されている。また需要の内訳は、住宅負荷 50%、商業負荷 25%、工業負荷 25% である。

3.3.2 事故復旧検討用のデータ

 系統モデルのデータについては 表 3.4 および 表 3.5 の二つの形で提供している。データ項目の種類は次の七つ。

(a) ノードデータ 表 3.4 (a) ]
(b) 送電線データ 表 3.4 (b) ]
(c) 開閉器データ 表 3.4 (c) ]
(d) 変圧器データ 表 3.4 (d) ]
(e) 調相設備データ 表 3.4 (e) ]
(f) 負荷曲線データ 表 3.5 (a) ]
(g) 故障率・復旧時間データ 表 3.5 (b) ]

 

 個々のデータ項目の詳細については表中に解説を記した。

表 3.4 (a) ノードデータ例

ノード
番号
データ
種別N-母線
V-仮想
J-分岐点
C-線種
H-併架
PV / PQ
指定0-None
1-PQ
2-PV
S-Slack
負荷の
種別G-電源
I-工業
C-商業
R-住宅
負荷の
重要度1-高
2-中
3-低
P 負荷
(MW)
Q 負荷
(Mvar)
容量
(MVA)
初期の
位相差
年間
故障
確率
(回 / 年)
電圧 (kV)
定格 下限 上限
221 N 1 0.0001 66 60 72
222 N 1 0.0001 66 60 72
2o11 V 0 66 60 72
2o12 V 0 66 60 72
14o11 V 0 66 60 72
14o12 V 0 66 60 72
1401 N 1 0.0001 66 60 72
1402 N 1 0.0001 66 60 72
1481 N 0 0.0001 66 60 72
1491 N 0 R 3 7.8 1.6 10 0.0001 6.6 6 7.2
14D1 V 0 6.6 6 7.2
14DT V 0 6.6 0 7.2
312o1 V 0 66 60 72
312o2 V 0 66 60 72
31200 N 1 C 2 2.1 0.4 0.0001 66 60 72
51011 J 0 66 60 72
51012 J 0 66 60 72

■ 解説

ノード番号の付け方は、ノードの種類によって次の 3 通りに分かれている。

  1. 変電所・特高需要家内の母線 (3 ~ 5 桁)変電所番号 (数字 1 ~ 3 桁) + 母線番号 (数字 2 桁)  例 : 1402
  2. 電源変電所・開閉所内の仮想ノード変電所番号 (数字 1 ~ 2 桁) + 母線番号 (アルファベット 1 桁 + 数字 2 桁)  例 : 2o21
    ※ 仮想ノードの番号は、そのノードに接続する開閉器の開閉器番号と同じ。
  • 送電線上のノードルート番号 (2 桁) + 通し番号 (2 桁) + 回線番号 (1 桁)  例 : 51012

■ ノード番号・開閉器番号の適用例

表 3.4 (a)

■ ノード種別

N – 母線ノード : 通常の母線を表す
J – 送電線分岐点ノード : 送電線の分岐点を表す
C – 線種変更ノード : 送電線の線種変更点を表す
H – 併架変更ノード : 送電線の併架状況が変わる点を表す
V – 仮想ノード : 母線以外の設備と開閉器を接続するための仮想ノード

■ PV / PQ 指定

潮流計算を行う際の PV / PQ 指定の種類を表す

表 3.4 (b) 送電線データ例

送電線
番号
データ
種別T-架空線
U-地中線
From
ノード
To
ノード
線種 線路長
(km)
常時容量 短時間容量 隣接
ブランチ
% インピーダンス
(10 MVA ベース)
(MW) (A) (MW) (A) Z1R Z1X Y1C
51011 T 2o21 51011 ACSR410 6.8 90 830 102 937 51012 0.1101 0.5623 0.48
51012 T 2o22 51012 ACSR410 6.8 90 830 102 937 51011 0.1101 0.5623 0.48
51021 T 51011 14o11 ACSR410 2.16 90 830 102 937 51022 0.0350 0.1786 0.15
51022 T 51012 14o12 ACSR410 2.16 90 830 102 937 51021 0.0350 0.1786 0.15
51051 U 51011 312o1 3*CV400 1.57 61 560 61 560 0.0169 0.0427 2.90
51052 U 51012 312o2 3*CV400 1.57 61 560 61 560 0.0169 0.0427 2.90

■ 解説

送電線番号 (5 桁)  例 : 51011

ルート番号 (左 2 桁) 区間番号 (中 2 桁) 回線番号 (右 1 桁)
5  1 0  1 1
ルート 51 第 1 区間 1 号線

上記の送電線データは 表 3.4 (a) の系統図と対応している

隣接ブランチ番号は、信頼度評価検討の際に、送電線ルート事故を表現する際に使用。

表 3.4 (c) 開閉器データ例

開閉器
番号
データ
種別B-遮断器
S-断路器
L-負荷開閉器
From
ノード番号
To ノード 1 To ノード 2 故障率
(回 / 年)
開閉器数
番号 On / Off0-Off
1-On
番号 On / Off0-Off
1-On
CB LS OLS
2o20 B 221 222 1 0.00048 1 2 0
2o21 B 2o21 221 1 222 0 0.00061 1 3 0
2o22 B 2o22 221 0 222 1 0.00061 1 3 0
14o10 B 1401 1402 1 0.00048 1 2 0
14o11 B 14o11 1401 1 0.00048 1 2 0
14o12 B 14o12 1402 1 0.00048 1 2 0
14o81 B 1402 1481 1 0.00048 1 2 0
14o82 B 1402 1483 0 0.00048 1 2 0
18L301 L 14D1 1491 1 0.00011 0 0 1
18L350 L 1491 14DT 0 0.00011 0 0 1
312o1 B 312o1 31200 1 0.00048 1 2 0
312o2 B 312o2 31200 0 0.00048 1 2 0

■ 解説

開閉器番号の付け方 (最大 7 桁 : 詳細は 表 3.4 (a) を参照)

  • 変電所・需要家番号 (数字 1 ~ 3 桁) + 遮断器番号 (アルファベット 1 桁 + 数字 1 ~ 3 桁)

From / To ノードの設定

  • 開閉器が分岐していなければ、母線ではない側を From ノードとする。両端とも母線の場合は、ノード番号が若い方を From 側と設定する。
  • 開閉器が分岐している場合は、切替が不可能な側を From 側とする。つまり、複母線に接続する開閉器 (上表の 2o21 のような開閉器) では、送電線側を From 側とする。逆に、遮断器 1 台で 2 回線受電を行っている需要家などでは、母線側を From 側とし、送電線側を To 側とする。

表 3.4 (d) 変圧器データ例

変圧器
番号
データ種別X-変圧器 ノード番号 容量
(MVA)
定格電圧 (kV) タップ
固定端
タップ電圧 (kV) 故障率
(回 / 年)
% リアクタンス
(10 MVA ベース)
From To From To 最高 最低
110 X 1o11 1o21 200 275 66 2 302 248 23 0.00167 1.02000
120 X 1o12 1o22 200 275 66 2 302 248 23 0.00167 0.97600
211 X 2o11 271 200 154 66 2 161 133 17 0.00167 0.88833
212 X 271 2o21 200 66 66 0 0.00167 -0.07833
213 X 271 291 200 66 22 0 0.00167 1.21167
1410 X 1481 1491 10 66 6.6 1 6 7.2 17 0.00167 7.50000
1420 X 1482 1492 15 66 6.6 1 6 7.2 17 0.00167 5.00000
1430 X 1483 1493 20 66 6.6 1 6 7.2 17 0.00167 3.75000

■ 解説

変圧器番号 (数字 3 ~ 5 桁)  例 : 212

変電所番号 (数字 1 ~ 3 桁) 通し番号 (数字 1 桁) 次数番号 (数字 1 桁)
2 1 2
変電所 2 1 号変圧器 2 次側

次数番号とは、3 次側出力が存在する変圧器の場合、1 台の変圧器を 1 次側、2 次側、3 次側に 3 分割して表現するために必要な数字で、3 次側出力が無い場合は 0 とする。

表 3.4 (e) 調相設備データ例

調相設備番号 データ種別C-Cs
R-ShR
接続母線 容量 (MVA) 定格電圧 (kV) 開閉状態0-Off
1-On
C L
2C11 C 291 15 22 0
2C12 C 291 15 22 1
2C13 C 291 20 22 0
18C1 C 1811 15 66 0
18C2 C 1812 15 66 1
124C1 C 12421 4 6.6 0

■ 解説

調相設備番号の付け方

  • 変電所番号 (数字 1 ~ 3 桁) + 設備種別 (アルファベット 1 文字) + 通し番号 (数字 1 ~ 3 桁)

表 3.5 (a) 負荷曲線データ

日負荷曲線
時刻 住宅負荷 商業負荷 工業負荷
夏季 冬季 春秋季 通年 通年
平日 休日 平日 休日 平日 休日 平日 休日 平日 休日
1 66 64 70 66 68 68 26 24 140 102
2 60 58 62 60 62 62 24 24 140 100
3 54 54 62 58 56 56 22 22 140 100
4 54 54 60 56 54 54 22 22 140 100
5 56 56 60 56 54 54 22 20 140 100
6 62 58 64 58 62 54 22 20 140 98
7 70 66 80 68 76 62 24 20 134 96
8 82 76 90 78 88 76 34 22 122 94
9 90 86 96 88 94 88 64 26 108 98
10 94 92 98 90 98 90 90 32 100 100
11 96 94 98 90 100 90 98 34 100 100
12 98 96 98 90 100 90 100 36 90 90
13 98 98 98 90 100 90 100 36 90 90
14 100 98 100 90 100 90 100 36 96 96
15 100 98 100 90 100 90 100 34 100 100
16 98 96 102 92 100 90 98 34 98 98
17 98 94 110 96 104 96 98 34 94 94
18 96 94 116 102 108 100 94 32 90 90
19 98 96 116 100 110 100 82 32 90 90
20 96 94 112 98 108 98 68 30 96 96
21 92 90 106 94 104 94 56 28 100 98
22 88 86 100 90 96 90 46 26 110 100
23 82 80 90 86 88 85 38 26 140 100
24 74 74 80 78 76 76 34 24 140 102

 日負荷については平日 15 時の値を 100とした 年負荷レベル

住負荷宅 商業負荷 工業負荷
1 80 70 85
2 75 65 80
3 65 65 75
4 50 55 70
5 55 60 75
6 70 70 80
7 90 90 90
P 100 100 100
8 85 75 80
9 75 70 75
10 55 65 70
11 60 65 75
12 70 80 80

 夏季 : 7, P, 8, 9
 春秋季 : 4, 5, 6, 10, 11, 12
 冬季 : 1, 2, 3

表 3.5 (b) 故障率・復旧時間データ

機器種別 コード 条件 故障率 単位 復旧時間
1 回線 ルート
送電線 架空送電線 T 再送電 成功 雷 (7 月 ~ 9 月) 0.017572 0.008496 回 / km 年 3 分
雷 (その他の月) 0.001772 0.001001
雷以外 (通年) 0.004292 0.000191
年平均 0.010014 0.003066
失敗 雷 (7 月 ~ 9 月) 0.004220 0.000172 40 分
雷 (その他の月) 0.000385 0
雷以外 (通年) 0.003844 0.000217
年平均 0.005188 0.000260
地中送電線 U 0.00154 150 分
変電所機器 変圧器 X 0.00167 回 / 年 150 分
遮断器 B 0.00022
負荷開閉器 L 0.00011
断路器 S 0.00013
母線 N 複母線 0.0001 60 分
母線 N 単母線 0.0001 150 分

3.3.3 事故復旧検討時の制約事項

 送電線・変圧器の短時間容量とその使用可能時間は 図 3.8 のとおりである。
 事故復旧時の制約条件としては、復旧操作時に潮流が設備の短時間容量を超過しないことと、復旧後の系統にて潮流が設備の連続容量を超過しないことの二つである。

3.8

図 3.8 配電用変圧器過負荷パターン

3.3.4 信頼度評価検討用データ項

 信頼度、すなわち供給支障量や供給支障時間を評価検討するには、3.3.1 に示したようなノード・ブランチデータに加えて、設備の故障率データが必要となる。また、故障発生時にほかの設備に切換え可能か否かによって供給支障量が変化するので設備容量データに加え、時々刻々と変化する需要レベルのデータも必要となる。
 既存の信頼度評価用系統モデルとしては IEEE Reliability Test System が著名であり、このモデルでも送電系統モデルに加えて、信頼度評価に必要な電源特性、需要モデル、故障率データが用意されている。
 今回のモデルは地域供給系統の信頼度評価を目標とするため、電源特性は考慮しないが、特に最近検討が進められている信頼度を確率に評価する手法においては、負荷変動データが重要となることから、需要モデルについては全負荷一律だけでなく、負荷の種別によって使い分けられるようにきめ細かく設定した。

(1) 負荷変動データ (需要モデル)

 表 3.5 (a) に示すとおり、負荷変動データは住宅負荷・商業負荷・工業負荷に分け、日負荷曲線 (平日・休日別) と月別の年負荷レベルから、1 年間 8,760 時間の負荷変動を設定できるようにしている。特に季節による日負荷曲線の変化が著しい住宅負荷については、夏季・冬季・春秋季の 3 とおりの日負荷曲線を用意した。図 3.7 の各負荷がどの種別に分類されるかはノードデータに示されている [ 表 3.4 (a) ] 。これらの負荷曲線を 図 3.9 (a)(e) に示す。月別負荷レベルは、特にピーク需要がせん鋭化している日本の需要特性を模擬するため、通常の月とは別に、7 月末に 5 日間の猛暑期 [ データファイル ( 表 3.5 ) 中では「P」で表記 ] 設定している。月別負荷レベルを 図 3.9 (f) に示す。
 また、負荷種別まで考慮できないユーザのために全系の年間デュレーションデータもディジタルデータとしては用意しており、これを用いて全負荷一律に負荷変動するとして信頼度評価を行うことも可能である。

3.9.a

図 3.9 (a) 日負荷曲線 (住宅負荷 : 夏季)

3.9.b

図 3.9 (b) 日負荷曲線 (住宅負荷 : 冬季)

3.9.c

図 3.9 (c) 日負荷曲線 (住宅負荷 : 春秋季)

3.9.d

図 3.9 (d) 日負荷曲線 (商業負荷)

3.9.e

図 3.9 (e) 日負荷曲線 (工業負荷)

3.9.f

図 3.9 (f) 日負荷曲線 (年負荷レベル)

(2) 故障率・復旧時間データ

 故障率データを 表 3.5 (b) に示す。故障率は、電気協同研究「変電設備保全の高度化・効率化」 (50, No.2) に示される値や電力会社の実績値を使用した。母線の故障率は電源変電所、配電用変電所などの別を問わず同一とした。なお、送電線再送電成功以外の復旧時間は現実には、故障設備が復旧できる時間ではなく、配電切換えなどの対策により故障が継続した状態でも供給支障が解消される系統を構築するために必要となる時間に相当している。

(3) 系統切換え時間

 系統モデルの中で系統切換えを考慮し、上記の復旧時間よりも早く供給支障が解消されることを模擬し、信頼度評価に反映できるよう系統切換え時間を下記のように設定した。

  • 配変 1 次側の受電切換え : 1 分
  • 配変バンクの切換え : 10 分
  • その他の切換え : 初期応動 3 分に加えて、1 回の切換えに対して必要な操作時間を 5 分とする。したがって、供給支障解消までに N 回の系統切換えが必要な場合、停電時間は (3+5N) 分。

系統データのダウンロード


 ここでは、系統のデータおよびマップをダウンロードすることができる。Microsoft Excel 形式 (.xls) のファイルを、自動解凍形式 (.exe) で圧縮している(拡張子の”.jpg”を削除して下さい)。

 なお、系統 III に関しては、事故復旧検討用と信頼度評価検討用の 2 種類を作成した。配変 2 次母線までのデータおよび設備事故率のデータを揃えているかどうかが主に異なる。詳しくは、ダウンロードおよび解凍後、readme.txt を参照されたい。